蛍光量子収率とは

蛍光量子収率(fluorescence quantum yield)とは、光吸収(励起)によって分子が吸収した光子数に対し、蛍光として放出された光子数の比である。励起された分子がすべて蛍光を放出した場合、理論上の最大値である1.0に近づくが、実際には振動緩和、内部転換、項間交差、消光などの過程が影響し、1.0に達することはほとんどない。

蛍光量子収率(φ_f)は以下の式で定義される。

ここで、k_fは蛍光放出の速度定数、k_nrは非放射失活の速度定数である。

量子収率の測定法には、標準試料と比較する相対法と、放射・非放射失活の速度定数を直接測定する絶対法がある。

代表的な標準試料には、キニーネ硫酸塩水溶液(φ_f = 0.577)やローダミン6G(φ_f = 0.94)などが挙げられる。

蛍光寿命とは

蛍光寿命(fluorescence lifetime)とは、励起状態の分子が基底状態に戻るまでの平均時間であり、以下の式で表される。

蛍光寿命は時間相関蛍光分光法(TCSPC)などを用いて測定される。一般的な蛍光分子の寿命は、ナノ秒(ns)オーダーである。寿命が長いほど非放射失活が少なく、量子収率が高くなる傾向がある。

蛍光消光とは

蛍光消光(fluorescence quenching)とは、蛍光分子が励起状態から基底状態へ戻る際に、蛍光が減少または消失する現象である。蛍光消光には、動的消光(collisional quenching)と静的消光(static quenching)がある。

動的消光

動的消光とは、励起状態の蛍光分子が消光剤と衝突し、エネルギー移動や電子移動によって非放射的に失活する過程である。スターン・フォルマー(Stern-Volmer)の関係式で表される。

ここで、I_0は消光剤がない場合の蛍光強度、Iは消光剤存在時の蛍光強度、k_qは消光速度定数、τ_0は消光剤がないときの蛍光寿命、[Q]は消光剤の濃度である。

静的消光

静的消光は、蛍光分子と消光剤が基底状態で安定な錯体を形成し、励起されても蛍光を発しない場合に生じる。錯体形成の結合定数をK_aとすると、以下の式で表される。

この場合、スターン・フォルマーの関係式は次のように変形される。

このように、蛍光量子収率、蛍光寿命、蛍光消光の各パラメータは、蛍光分子の性質や環境を理解する上で重要な指標となる。特に生物学や材料科学分野では、蛍光特性の制御が重要な研究テーマとなっている。

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