
呼気中のアルコール測定の背景と法的意義
飲酒運転を防止するため、運転者の血液中のアルコール含有量を測定する技術が厳密に求められている。現代においては、血液を採取せずとも正確にアルコール量を測る方法として、呼気分析が標準的に用いられている。
米国の法基準では、血中アルコール濃度が0.15%以上であれば酔っていると見なされ、その基準値は呼気中のアルコール濃度から逆算して推定される。これは肺の奥から吐き出される空気が血液と平衡状態にあることに基づくものであり、分析対象とすべき呼気は肺胞からの空気である必要がある。
呼気中エタノールの測定に用いられる酸化反応
呼気中のエタノールを検出するためには、化学反応による変化を利用する方法がある。
代表的な反応として、エチルアルコール(CH₃CH₂OH)をニクロム酸カリウム(K₂Cr₂O₇)と濃硫酸(H₂SO₄)の混合物と反応させ、変化を観察する方法が挙げられる。この反応は硝酸銀(AgNO₃)を触媒として進行する。
化学反応式(1)
↓+AgNO3
3CH₃CH₂OH + 2K₂Cr₂O₇ + 8H₂SO₄ → 3CH₃COOH + 2Cr₂(SO₄)₃ + K₂SO₄ + 11H₂O
ここで、無色であるエタノールおよびニクロム酸カリウム(黄色)は、酢酸(CH₃COOH)と緑色を呈する硫酸クロム(Ⅲ)を生成する。この色の変化が反応の進行度を示す重要な指標となる。
色の変化に基づくアルコール量の定量原理
この分析方法では、ニクロム酸カリウムの酸化力を利用し、エタノールを酸化してその変化量を検出する。
ニクロム酸カリウム(K₂Cr₂O₇)は黄色を呈するが、反応が進行するに従い、生成される硫酸クロム(Ⅲ)(Cr₂(SO₄)₃)は青緑色を示す。
呼気試料中のアルコール量が多いほど、ニクロム酸カリウムの消費量も多くなり、それに伴い青緑色への変化も大きくなる。この色の変化の度合いを、光電管を備えた装置によって光電的に測定することで、アルコール量を定量的に読み取ることが可能となる。
測定装置の仕組みと応用
この測定方法に用いられる装置は、分析試薬と呼気試料を反応させた後、その吸光度の変化を検出する光学的センサーを備えている。光電管によって測定された吸光度の違いは、アルコール濃度の差を正確に示すものであり、機械的な信頼性も高い。
また、この方法はリアルタイムで迅速に測定できるため、現場での飲酒検査や法的証拠としての活用にも適している。
まとめ:科学的根拠に基づいたアルコール検出技術の信頼性
本記事で解説したように、呼気中のアルコール量の測定には、化学的に明確な酸化還元反応とそれに伴う色の変化を利用した高度な分析手法が用いられている。
この技術により、血液を採取せずとも高精度でアルコール量を把握することが可能となっており、飲酒運転の抑止および法的取り締まりにおける信頼性の高い根拠を提供している。