高分子材料のクレーズ発生の動力学メカニズムを解説!

クレーズ発生における臨界応力と誘導期間の意義

クレーズとは高分子材料に発生する微細な空洞構造であり、その発生には特定の応力条件と時間経過が関与する。

クレーズの発生には臨界応力あるいは臨界ひずみの閾値が存在し、それ未満の負荷では長時間にわたり応力を負荷してもクレーズは発生しない。一方で、これを超えた負荷では初めてクレーズの発生が観察される。

興味深いことに、クレーズは負荷をかけた直後に一斉に発生するのではなく、時間の経過とともに発生密度が増加し、最終的には一定の平衡値に達する。この現象は、PMMA(ポリメチルメタクリレート)の表面クレーズに関して、負荷時間とクレーズ密度との関係が視覚的に示されている。

このような傾向はPS(ポリスチレン)についても同様に報告されており、各クレーズにおいて発生までに一定の時間遅れが生じることを意味する。

この時間遅れは、潜伏期間(incubation time)あるいは誘導期間(induction period)として知られ、クレーズが発生するための前駆過程として重要である。

このため、臨界応力あるいはひずみ以上の条件でも、すべてのクレーズが直ちに発生するわけではないという点が強調される。

相対度数分布と時間依存性の数理モデル

クレーズ発生の時間的特性を定量的に評価するための実験として、100本の試験片に同一の負荷を加え、最初のクレーズが発生するまでの時間を測定する方法が挙げられる。この結果は、相対度数分布として得られ、その分布形状は正にひずんだ形を示し、通常の正規分布ではなく対数正規分布指数分布に近似される。

このような発生時間分布を解析するために、数理モデルが導入される。まず、クレーズが発生していない試験片数を N(t)、その変化を微分形式で表すと、以下の式(1)が得られる。

ここで m(t) は時間依存性をもつクレーズ発生率を意味する。総試験片数を N0​ とすると、次のように変換できる。

この式は、時刻 t までにクレーズが発生していない確率 P(t) の変化を示す。さらに、P(t)=N(t)/N0​ であるから、

一定値 m に対して、解は

となる。

クレーズが t と t+dt の間に発生する確率密度関数 q(t) を考慮すると、以下の関係が導出される。

この理論を用いて実験データ log⁡P(t)−t をプロットすると、負荷応力と直線的関係が示される。

つまり、クレーズ発生率 m は応力の増加とともに指数関数的に増加し、以下の経験式に従う。

温度依存性とEyring理論による定式化

PC(ポリカーボネート)における温度変化の影響を調べた結果、クレーズ発生時間 ti​ と温度 T、および応力 σ の関係は以下のように表される。

この式は、Eyring理論に基づく反応速度式であり、ΔF は活性化エネルギー、R は気体定数、α は体積係数を示す。

さらに、等荷重負荷での表面クレーズ発生に関する実験において、PSにおけるクレーズ発生応力と温度の関係が、以下の関係式が得られる。

ここで、A′,B′,C′ は定数であり、ガラス状態分子の降伏現象を反映する数式としての意義を有する。

まとめ

クレーズ発生のメカニズムは単純な応力超過ではなく、時間依存的な誘導期間や確率分布を含む複雑な動力学に基づいている。

温度や応力の影響もEyring理論等により詳細に定量化可能であり、高分子材料の破壊予測や寿命評価において極めて有用な知見を提供する。

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