酸素とオゾンの光化学について

1. 酸素の基底状態と光吸収特性

地球の大気中に存在する酸素(O₂)は、主に植物の光合成による水の酸化反応によって生成される。大気中の酸素分子の大部分は基底状態(³Σg⁻)で存在し、その最高被占軌道(HOMO)は2つの等エネルギーの軌道が縮退した状態にある。そのため、基底状態のO₂は二重項状態(¹Σg⁺)ではなく、三重項状態(³Σg⁻)を取る。

酸素分子は無色透明な気体であり、可視光領域の光をほとんど吸収しないが、紫外線(特に波長が240 nm以下の領域)を吸収することで遷移を起こし、励起状態に達する。この際、酸素は高エネルギー状態の原子状酸素(O(³P))へと変化する。さらに、この原子状酸素が基底状態の酸素分子(O₂)と反応することで、オゾン(O₃)が生成される。

この反応は、地球の成層圏において特に重要であり、オゾン層の形成に寄与している。

2. オゾンの構造と生成メカニズム

オゾン(O₃)は折れ線形の分子構造を持ち、その共鳴構造によって安定性が確保されている。オゾンの生成は、酸素分子が紫外線を吸収して分解し、その後、原子状酸素とO₂が結合することで進行する。このプロセスには143 kJ mol⁻¹(25℃)のエネルギーが関与している。

オゾンは、成層圏においてUVC(280 nm以下の紫外線)および一部のUVB(280〜320 nm)の紫外線を吸収し、地表に到達する有害な放射線を遮断する役割を果たしている。これにより、地球の生物圏は紫外線による遺伝子損傷から保護される。

しかし、オゾンは不安定であり、励起状態の酸素原子(O(¹D))と反応することで再び分解される。

このように、オゾンは光化学的な平衡状態を保ちながら、紫外線吸収と分解を繰り返している。

3. 酸素・オゾンの生物圏への影響

酸素およびオゾンの光化学反応は、地球の生態系に深く関わっている。酸素は生物の呼吸に不可欠な要素であり、細胞のエネルギー生産に寄与している。一方、オゾンは成層圏では有益な存在であるが、対流圏においては光化学スモッグの原因となり、生物や環境に悪影響を及ぼすことがある。

また、活性酸素種(ROS:Reactive Oxygen Species)の形成を通じて、オゾンは細胞内の脂質過酸化やDNA損傷を引き起こす。これにより、老化や発がんリスクの増加が懸念される。逆に、この酸化作用を利用し、オゾンは光殺菌や浄化技術にも応用されている。

4. まとめ

酸素とオゾンは、地球の大気中で重要な役割を果たしており、その光化学反応は生物圏の維持に不可欠である。特にオゾンは、成層圏では紫外線防御機能を持つ一方で、対流圏では大気汚染の原因ともなり得る。

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