RIMってどんな技術?「自動車を支える技術」

RIMってどんな技術?

反応射出成形(Reaction Injection Molding、略してRIM)とは、2種類以上の液体原料を高圧で混ぜながら金型に流し込み、化学反応によって一体成形する技術である。
普通のプラスチック成形では「熱で溶かして冷やす」方法が多いが、RIMは原料を反応させて固めるため、より自由度の高い設計が可能になる。しかも、軽くて丈夫な製品を作ることができるため、自動車や家電などの産業分野で注目されている。

RIMの大きな特徴は「同じ原料でも作り方によって性質が変わる」点にある。成形品の内部構造には大きく分けて2つのタイプがある。

インテグラルフォーム


外側(スキン)は硬くて密度が高く(約1100 kg/m³)、内側(フォームコア)は軽くて密度が低い(約400 kg/m³)。つまり「外はしっかり、中はふんわり」というサンドイッチ構造になっており、軽量でありながら強度を確保できる。

これはまるでパンの耳と中身のような関係で、スポンジ感を持ちながら外側はしっかり守る役割を果たす。

非フォームソリッド


全体が均一に高密度(約1100 kg/m³)の構造。こちらは軽量化よりも「剛性」や「安定性」が求められる部品に使われる。

なぜ自動車にRIMが使われるのか?

自動車は「軽くて安全」であることが求められる。RIMはこの条件にぴったり合うため、1980年代から積極的に利用されてきた。主に使われている材料は、ポリウレタン(PU)系で、弾性と成形のしやすさに優れている。

さらに最近では「非PU系のRIM材料(非PURIM)」も開発されている。これらは、耐熱性やリサイクル性に優れ、環境に配慮した次世代素材として期待されている。

実際に使われている部品の例(1989年当時のデータ)

  • バンパー:全体の40%
  • エアスポイラー:50%
  • ハンドル:70%(RIMまたは類似技術で製造)

これを見ても分かるように、車の外装から内装までRIM技術は幅広く利用されている。

RIMの市場とこれから

1989年の時点で、日本国内だけでもRIM材料の生産量は年間3万トンに達していた。その大部分が自動車用途であり、当時からすでに欠かせない技術となっていたことが分かる。

そして今後は、さらに大きな可能性がある。特に注目されているのが「自動車の外板」への応用である。外板は軽量化すればするほど燃費や環境性能が向上するため、RIMは自動車業界の未来を支える重要な技術になると考えられている。

RIMまとめ

  • RIMは液体原料を金型に流し込み、反応で固める成形方法。
  • 外が硬くて中が軽い「インテグラルフォーム」と、全体が均一な「非フォームソリッド」の2種類がある。
  • 主に自動車の部品(バンパー、エアスポイラー、ハンドルなど)で利用され、軽量かつ強度を両立させる。
  • 将来的には自動車外板や環境対応素材として、さらに市場拡大が期待される。

RIMは「軽いのに強い」「自由な形が作れる」という特徴を持ち、自動車だけでなく幅広い分野に広がっていく可能性を秘めている。初心者でもイメージしやすいようにたとえるなら、RIMは“しっかりしたパンの耳を持つふわふわのパン”を工業的に作る技術だと言えるだろう。

世界のRIM市場の拡大

1987年時点における世界のRIM市場は、北米53,000トン、日本21,000トン、西欧18,000トンと報告されている。

特に北米市場は世界全体の約半数を占め、成長の中心地となっていた。
この拡大の背景には、自動車外装材料への適用が可能になったことが大きく関わっている。

具体例として、1984年に採用されたモジュールウィンドウガスケットの利用が急増しており、さらに近い将来にはポリ尿素RIMフェンダーへの移行も有望視されていた。これは軽量化と耐衝撃性を兼ね備えた材料需要が高まったことを示している。

北米自動車外装用RIM市場の推移

以下の表は、北米市場におけるRIMの主要用途と成長を示すものである。

表 北米自動車外装用RIM市場(単位:トン/年)

使用部位1986年1991年1996年
ボディパネル1,6804,32014,140
バンパーフェイシア44,32043,41034,950
ウィンドキャプシュレーション4,05012,14018,910
構造部材45068013,140
50,50060,55081,140

このデータから分かることは次の通りである。

  • ボディパネルは10年間で約8倍に増加しており、外装部材としてのRIM利用が急速に拡大している。
  • バンパーフェイシアは安定して高い需要を維持しているが、やや減少傾向にある。これは競合する成形技術や材料の登場による影響と考えられる。
  • 構造部材は1990年代に急増しており、RIMの応用範囲が「外装」から「構造体」へと広がりつつあることを示している。

このように、市場動向からは「RIMが自動車産業の中心的な成形技術として確立していった過程」が読み取れる。

PURIMの製造と化学反応

RIM技術の進化に伴い、ポリウレタンを主体とする従来の材料から、ポリ尿素RIM(PURIM)の開発が進んでいる。PURIMは高い耐熱性や強度を持ち、従来のPU-RIMでは対応が難しい分野に適用可能である。

PURIMを作るための反応

PURIM材料を得るためには、以下のような化学反応が利用される(図参照)。

  1. ポリイソシアネートと高分子ポリオールの反応
    • 生成物:ウレタン結合(–NH–CO–O–)
    • 主に弾性や柔軟性を付与する。
  2. ポリイソシアネートと低分子ポリオールの反応
    • 生成物:硬化性の高いウレタン結合
    • 構造の安定化に寄与する。
  3. ポリイソシアネートと低分子ポリアミンの反応
    • 生成物:尿素結合(–NH–CO–NH–)
    • 高強度・高耐熱性を実現する。
  4. ポリイソシアネートと水の反応

これらの反応は触媒、整泡剤、添加剤の存在下で制御され、最終的な物性(弾性、強度、耐熱性など)が調整される。

PURIMの基盤材料

PURIM(ポリ尿素RIM)を構成する主な原料は ポリイソシアネートポリオール である。これらは反応の組み合わせによってウレタン結合や尿素結合を形成し、最終的な製品の強度や柔軟性を決定する。


ポリイソシアネート

RIMで用いられるポリイソシアネートは、主に フェニルメタンジイソシアネート(MDI) 系の化合物である。MDIには以下のような種類がある。

(a) モノメリックMDI(ベースMDI)

  • 化学構造式:
    OCN–C₆H₄–CH₂–C₆H₄–NCO
  • 特徴:シンプルな構造を持ち、反応性が高い。ウレタンや尿素結合をつくる基本的な原料となる。

(b) プレポリマー化MDI(変性イソシアネート)

  • 構造:MDIにポリエーテルポリオールなどを部分的に結合させたもの。
  • 特徴:分子量が増加するため粘度が上がり、取り扱いやすくなる。反応性も適度に制御され、製品の物性調整に役立つ。

(c) カルボジイミド化MDI(変性イソシアネート)

  • 構造:イソシアネート基(–N=C=O)の一部がカルボジイミド(–N=C=N–)構造に変換されている。
  • 特徴:熱安定性が高く、耐久性に優れた材料を作れる。高温環境で使用される部品に適する。

これらのポリイソシアネートは、NCO基の含有量が20〜30%程度に調整されて使用されることが多い。


ポリオール

ポリオールは、イソシアネートと反応してウレタン結合を形成する重要な原料である。RIMやPURIMでは、反応性を高めるためにエポキサイド付加ポリエーテルポリオールがよく用いられる。

エポキサイド付加ポリエーテルポリオールの特徴

  • 基本構造:
    R–(–O–CH₂–CH(OH)–)ₙ–R′
  • ここで、
    • R:出発物質に由来する基(通常は水酸基を持つ)
    • R′:HまたはCH₃
    • n:出発物質の官能基数

製造方法

  1. プロピレンオキシドを用いて鎖延長を行う。
  2. 末端にエチレンオキシドを付加することで反応性をさらに高める。

この構造により、イソシアネート基との反応性が増し、発泡制御や物性調整が容易になる。

架橋剤の役割

RIM材料において架橋剤は、分子同士をつなぎ合わせることで強度や耐久性を高める役割を担う。架橋反応によって三次元網目構造が形成されるため、成形品は弾性を維持しながら高い寸法安定性を得られる。

図に示されるように、以下のような化合物が代表的な架橋剤として用いられる。

(a) エチレングリコール(EG)

  • 構造式:HO–CH₂–CH₂–OH
  • 特徴:最も基本的な二価アルコール。短鎖で反応性が高く、シンプルな架橋材として広く利用される。

(b) 1,4-ブタンジオール(1,4-BD)

  • 構造式:HO–CH₂–CH₂–CH₂–CH₂–OH
  • 特徴:直鎖のジオールであり、柔軟性を付与すると同時に高強度を実現する。ポリウレタン工業で特に重要。

(c) ジエチルトルエンジアミン(DETDA)

  • 構造:芳香族環に2つのアミノ基(–NH₂)を有する。
  • 特徴:反応性が高く、RIMにおける主要な硬化剤のひとつ。ウレア結合を多く形成し、耐熱性や耐薬品性を向上させる。

(d) t-ブチルトルエンジアミン(t-BTDA)

  • 構造:トルエン環にアミノ基を持ち、さらにt-ブチル基を有する。
  • 特徴:立体障害により反応性が調整され、硬化反応のコントロールが可能。用途に応じて反応速度を変化させられる。

まとめ

  • ポリオールはRIMの弾性を決定する基材であり、分子量や官能基数、さらには共重合成分によって特性が調整される。
  • 架橋剤は分子同士をつなぎ、製品に強度や寸法安定性を付与する。
  • EGや1,4-BDのようなジオールは基本的な架橋剤であり、DETDAやt-BTDAのような芳香族ジアミンは高反応性・高耐熱性を実現する。

RIMの魅力は「原料の組み合わせ次第で特性を自在にコントロールできる」点にある。ポリオールと架橋剤の選択は、最終製品の性能を決定づける最も重要な要素のひとつである。

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