
Schotten–Baumann反応(ショッテン・バウマン反応)は、カルボン酸塩化物とアルコールやアミンを使って、エステルやアミドを合成する求核置換反応である。
有機合成においては非常に基本的かつ重要な反応の一つであり、実験室から工業的生産に至るまで幅広く利用されている。
豆知識①:反応名の由来
この反応は、ドイツの化学者 Carl Schotten と Eugen Baumann によって発見されたことから「Schotten–Baumann反応」と名づけられている。19世紀末の発見だが、現在でも変わらず有機化学の教科書に登場する定番の反応である。
反応式と生成物の基本形
Schotten–Baumann反応の全体像は、以下のような化学式で表される

ここでの各成分は次のとおり:
- R¹–COCl(A):カルボン酸塩化物(反応の出発原料)
- R²XH:求核剤(アルコールやアミン)
- NaOH:塩基(中和や促進の役割)
- R¹–COXR²(B):生成物(エステルまたはアミド)
- X = O, NH, NR²:Xの種類に応じて、生成物の構造が変わる
豆知識②:なぜ水酸化ナトリウムが必要?
反応中にHCl(塩化水素)が副生するため、それを中和して反応をスムーズに進めるためにNaOH(塩基)を加える。これにより副反応の抑制や収率の向上が期待できる。
反応機構をわかりやすく解説
ステップ①:カルボン酸塩化物の活性化
カルボン酸塩化物(R¹–COCl)は、カルボニル炭素(C=O)が電子不足のため、非常に求核攻撃を受けやすい構造をしている。
これにより、後述の求核剤がこの炭素に近づきやすくなる。
ステップ②:求核剤の攻撃
アルコールやアミン(R²XH)がカルボニル炭素を攻撃すると、四面体中間体(a)が形成される。中間体の形は以下のように想像できる

- 元のカルボニル酸部分に、Cl⁻と求核剤R²Xが同時に結合した構造。
- この段階では一時的に安定しているが、次のステップで変化が起きる。
ステップ③:塩化物の脱離と生成物の形成
Cl⁻が脱離基として抜けることで、中間体が安定化し、最終的にエステルやアミド(R¹–COXR²)が生成する。
豆知識③:この反応は何に似てる?
この反応機構は、カルボン酸誘導体が関与する求核アシル置換反応の典型例であり、酸無水物やエステルの変換にも類似したメカニズムが見られる。
求核剤の種類による生成物の違い
Schotten–Baumann反応では、用いる求核剤によって生成物が以下のように異なる:
求核剤の種類 | Xの種類 | 生成物の種類 | 例 |
---|---|---|---|
アルコール(ROH) | O | エステル | 酢酸エチルなど |
アンモニア(NH₃) | NH | 一次アミド | アセトアミドなど |
第一級アミン(RNH₂) | NH | N一置換アミド | N-メチルアセトアミドなど |
第二級アミン(R₂NH) | NR | N,N-二置換アミド | N,N-ジメチルアセトアミドなど |
豆知識④:アミドってどんな物質?
アミドはタンパク質の主成分であるペプチド結合(–CONH–)と同じ構造を含む。つまり、Schotten–Baumann反応は生命の基本構造をつくる反応とも言える。
反応が進む条件とその理由
- アルカリ水溶液中で行うことが一般的である。水酸化ナトリウムのような塩基を加えることで、副生する塩酸を中和し、目的生成物への転化率を高める。
- 反応は付加−脱離機構(nucleophilic acyl substitution)で進行する。
豆知識⑤:なぜ酸性条件ではだめなのか?
酸性下ではアミンやアルコールがプロトン化され、求核性が落ちるため、反応が進みにくくなる。したがって、Schotten–Baumann反応では塩基性条件が必要不可欠である。
具体例
Schotten–Baumann反応は以下のような具体例がある



まとめ:Schotten–Baumann反応は“合成化学の入口”
- カルボン酸塩化物 + アルコール/アミン → エステル/アミド という単純明快な反応でありながら、非常に応用範囲が広い。
- 初心者が有機反応の流れやメカニズムを理解する第一歩として最適である。
- 医薬、香料、ポリマーといった多くの製品が、この反応の延長線上に存在する。
豆知識⑥:Schotten–Baumann反応は実験でも定番!
実験室でも手軽に行える反応のため、大学の化学実験で初めて合成を体験する際の定番として扱われることも多い。