
有機化学を学び始めると必ず出てくる代表的な反応のひとつが SN1反応 です。
名前だけ聞くと難しそうですが、そのメカニズムをひも解いていくと意外にシンプルで、ちょっとドラマチックなプロセスを持っています。
この記事では、SN1反応の基本をわかりやすく解説します。
SN1反応の流れ
SN1反応は大きく2つのステップで進みます。

- 基質(R–X)がゆっくり分かれる
R–Xという化合物から、ハロゲンなどのX⁻が離れて、カチオン(R⁺)が生成します。 - この「解離のステップ」がとても遅いため、反応全体の速度を決めるポイントになります。これを律速段階と呼びます。
- 生成したR⁺に求核剤(Nu⁻)がすばやく結合
できあがったR⁺はとても不安定なので、すぐにNu⁻(水、アルコール、アミンなど)が飛びついてR–Nuという生成物ができます。
このように「遅い解離 → 速い結合」という流れで進むのがSN1反応です。
反応速度式は一次反応
SN1反応の速度式はとても特徴的です。

求核剤(Nu⁻)の濃度は入っていません。なぜなら、律速段階は「R–Xが分かれる」ことだからです。
つまり、この反応の速さは「基質がどれくらい分かれやすいか」だけで決まります。ここから Substitution Nucleophilic Unimolecular(単分子求核置換反応) の名前が付いているわけです。
SN1反応の豆知識
カーボカチオンの安定性がカギ!
SN1反応が起こるかどうかは、生成するカチオン(R⁺)がどれくらい安定かで決まります。三級炭素 > 二級炭素 > 一級炭素 の順で進みやすいのはこのためです。
溶媒の役割も重要
水やアルコールなどの極性溶媒は、生成したカチオンとアニオンを安定化させてくれるため、SN1反応を助けます。これを「溶媒和効果」と呼びます。
立体化学はラセミ化しやすい
平面構造のカチオンを経由するため、Nu⁻は前からでも後ろからでも攻撃でき、結果としてラセミ体(鏡像異性体の混合物)ができやすいのも特徴です。
まとめ
SN1反応は一見難解ですが、流れを「遅い解離」と「速い結合」の二段階に整理すればシンプルに理解できます。反応速度が基質のみに依存する点や、カーボカチオンの安定性が大きなカギとなる点がポイントです。
化学の教科書に登場する反応機構の中でも「舞台裏が面白い反応」のひとつ。
ぜひ「なぜこの反応は起きるのか」という視点で眺めると、有機化学の奥深さをさらに楽しめるでしょう。