
有機化学の反応機構の中でも、SN1と並んで基本中の基本とされるのが SN2反応 です。
SN1反応が「ゆっくり分かれてから結合」する2段階反応であるのに対し、SN2反応は一気に「攻撃と離脱が同時」に起こるスピード勝負の反応です。
名前の由来や、反応の進み方、ちょっとした豆知識を交えながらわかりやすく解説していきましょう。
SN2反応の基本 ― 攻撃と脱離が同時進行!
SN2反応は、求核剤(Nu⁻)が攻撃すると同時に脱離基(X⁻)が出ていく1段階の反応です。このとき、反応は一瞬だけ「五配位型」の特殊な遷移状態を経由します。
たとえば、ヨードメタン(CH₃–I)と水酸化物イオン(HO⁻)の反応を考えてみましょう👇


反応の途中では、C–I結合が切れかけるのと同時にC–O結合ができかけている状態が現れます。
このとき炭素は一瞬だけ5つの原子と関わっているような中間的な状態になりますが、実際に5価の炭素が存在しているわけではありません。これがSN2反応の大きな特徴です。
↓実際に反応機構では中間体は記載しないことが多い。

反応速度は二次反応
SN2反応の速度式は以下の通りです。

たとえば先ほどの例だと:

基質と求核剤の両方の濃度に比例するので、速度論的には 二次反応(Second Order Reaction) です。
ここから Substitution Nucleophilic Bimolecular(二分子求核置換反応) という名前がついています。
反応機構のイメージ:まさに「すれ違いざま」の一撃!
SN2反応は、求核剤が背後から攻撃し、脱離基が正面から出ていく形で進行します。つまり、反応は立体的に非常に秩序立っています。
この背後からの攻撃は “Backside Attack(背面攻撃)” と呼ばれ、結果として生成物の立体化学が反転します。
(※これは「ワルデン反転」と呼ばれる現象で、立体化学の問題では頻出です!)
SN2反応の豆知識
- ・立体障害に弱い!
求核剤が背面から攻撃する必要があるため、炭素の周りがかさばっている(立体障害が大きい)と攻撃がうまくいきません。よって、SN2反応はメチル基質や一次アルキル基質がもっとも進行しやすいのです。 - ・溶媒も影響する
SN2反応は求核剤の強さが重要なので、求核剤を弱めてしまうプロトン性溶媒(水やアルコールなど)は苦手。一方で、非プロトン性溶媒(DMSO、アセトニトリルなど)は求核剤を活発にして反応を速めます。 - ・SN1との混同に注意!
SN1は2段階で一次反応、SN2は1段階で二次反応。この基本をきちんと区別しておくと、複雑な問題でも迷いにくくなります。特に試験では「どちらが優先する条件か」を問われやすいので、基質・求核剤・溶媒・立体障害の4点を整理しておくのがコツです。
まとめ
SN2反応は、求核剤が攻撃するのと同時に脱離基が出ていく、まさに“一撃必殺”の反応です。1段階で進行し、基質と求核剤の両方の濃度に依存する二次反応である点がSN1との大きな違いです。
反応機構を矢印と立体構造でイメージできるようになると、有機化学の理解がぐっと深まります。SN2反応は立体化学・速度論・溶媒効果など、多くの重要な概念が一気に詰まった「有機化学の縮図」のような存在です。
👉 次はSN1とSN2を条件別に比較して、どちらの機構が優先するかを見分ける練習をすると、さらに応用力が身につきますよ!