[Fe(CN)6]4-と[Fe(H2O)6]2+の磁性の違い

1. はじめに

遷移金属化合物の磁性は、中心金属イオンの電子配置と配位子の性質によって決定される。

ここでは、[Fe(CN)6]4-と[Fe(H2O)6]2+の磁性を中心金属イオンの電子配置をもとに詳述する。

2. [Fe(CN)6]4-の磁性

2.1 中心金属の電子配置

[Fe(CN)6]4-の中心金属は鉄(II)イオン、すなわちFe2+である。鉄の原子番号は26で、電子配置は次の通りである

Fe2+イオンは2つの電子を失っているため、その電子配置は以下のようになる

2.2 配位子の影響

シアニドイオン (CN-) は強い場配位子であり、強い配位子場を形成する。これにより、鉄イオンのd軌道のエネルギーが大きく分裂する。

特に、低スピン状態を形成するため、電子はできるだけエネルギーの低い軌道に対になって入る。

2.3 低スピン状態

強い場配位子であるCN-の影響で、[Fe(CN)6]4-は低スピン状態を取りやすい。したがって、d軌道の電子配置は次のようになる

すなわち、t2g軌道に6個の電子が対になって入り、eg軌道には電子が入らない。

2.4 磁性

すべての電子が対になっているため、[Fe(CN)6]4-は反磁性を示す。

3. [Fe(H2O)6]2+の磁性

3.1 中心金属の電子配置

[Fe(H2O)6]2+の中心金属もFe2+である。電子配置は先述の通りである。

3.2 配位子の影響

水 (H2O) は弱い場配位子であり、比較的弱い配位子場を形成する。これにより、鉄イオンのd軌道のエネルギー分裂は小さい。

結果として、高スピン状態を形成しやすい。

3.3 高スピン状態

弱い場配位子であるH2Oの影響で、[Fe(H2O)6]2+は高スピン状態を取りやすい。したがって、d軌道の電子配置は次のようになる。

すなわち、t2g軌道に4個の電子が入り、eg軌道に2個の電子が入る。

3.4 磁性

高スピン状態では、いくつかの電子が対にならずに存在するため、[Fe(H2O)6]2+は常磁性を示す。

4. 結論

[Fe(CN)6]4-と[Fe(H2O)6]2+の磁性は、中心金属イオンの電子配置および配位子の強さによって決定される。

具体的には、[Fe(CN)6]4-は強い場配位子であるシアニドイオンの影響で低スピン状態を取り、反磁性を示す。

一方、[Fe(H2O)6]2+は弱い場配位子である水の影響で高スピン状態を取り、常磁性を示す。

5. 簡易な練習問題

問題1

[Fe(CN)6]4-の中心金属の電子配置を答えよ。

解答

Fe2+:[Ar]3d6

問題2

[Fe(H2O)6]2+の高スピン状態の電子配置を答えよ。

解答

t2g4eg2

問題3

[Fe(CN)6]4-が反磁性を示す理由を説明せよ。

解答

[Fe(CN)6]4-は強い場配位子であるシアニドイオンの影響で低スピン状態を取り、すべての電子が対になっているため反磁性を示す。

問題4

[Fe(H2O)6]2+が常磁性を示す理由を説明せよ。

解答

[Fe(H2O)6]2+は弱い場配位子である水の影響で高スピン状態を取り、いくつかの電子が対にならずに存在するため常磁性を示す。

問題5

低スピン状態と高スピン状態の違いを簡潔に説明せよ。

解答

低スピン状態では強い場配位子によってd軌道のエネルギー分裂が大きくなり、電子はできるだけエネルギーの低い軌道に対になって入る。

一方、高スピン状態では弱い場配位子によってd軌道のエネルギー分裂が小さくなり、電子は可能な限り多くの軌道に対にならずに分配される。

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