合成レシピ

Weinrebアミドは、有機合成において特にアルデヒドの選択的合成に活用される重要な中間体である。

Weinrebアミドの還元により得られるアルデヒドは、後続の反応の基盤として幅広く利用される。

本記事では、具体的な反応手順を提示しつつ、反応条件や試薬選択の意図についても詳述する。

Weinrebアミド還元の概要

Weinrebアミドの還元には、主にジイソブチルアルミニウムヒドライド(DIBAL-H)が用いられる。

この還元剤は、アルデヒドまでの還元を高収率で達成でき、過剰還元による副生成物の生成を最小限に抑えることが可能である。

試薬用量モル数
ハーメチルーローメチルヒドロキシアミド1.65 g3.06 mmol
DIBAL-H(1.5 M トルエン溶液)2.90 mL4.35 mmol
四塩化炭素(THF)30 mL-
飽和酒石酸ナトリウムカリウム水溶液100 mL-
ジエチルエーテル適量-

実験手順

Step 1: 反応溶液の冷却

まず、ハーメチルーローメチルヒドロキシアミド(1.65 g, 3.06 mmol)をTHF(30 mL)に溶解させる。

この溶液を-78°Cまで冷却する。この温度はドライアイスとアセトンの混合物を用いて容易に達成できる。この低温条件はDIBAL-Hによる過剰還元を防ぐために重要である。

Step 2: 還元剤(DIBAL-H)の添加

冷却した溶液に、DIBAL-Hの1.5 Mトルエン溶液(2.90 mL, 4.35 mmol)をゆっくりと滴下する。

DIBAL-Hは非常に反応性が高いため、過剰な温度上昇を防ぐために注意深く加える必要がある。還元剤の量は基質のモル数に対して約1.4当量とすることで、アルデヒドまでの還元に留めるように調整する。

Step 3: 反応の進行と攪拌

DIBAL-Hを添加後、反応溶液を-78°Cで45分間攪拌する。

この間に、Weinrebアミドからアルデヒドへの還元反応が進行する。反応時間や温度は、過剰還元を防ぎつつ高収率を維持するために慎重に設定されている。

Step 4: 反応停止と水仕事

45分の反応後、飽和酒石酸ナトリウムカリウム水溶液(100 mL)を加えて反応を停止する。

この溶液は酸性環境を提供し、残存するDIBAL-Hを中和する役割を持つ。水溶液を加える際には、温度変化や気泡の発生が予想されるため、少量ずつ加えると安全である。

Step 5: 抽出

反応停止後、生成物を有機溶媒で抽出する。具体的には、ジエチルエーテルを用いて生成物を3回抽出する。

この抽出工程で得られた有機層には目的のアルデヒドが含まれている。

Step 6: 乾燥と濃縮

有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過した後、溶媒を減圧下で濃縮する。濃縮により得られた残渣は、次の精製工程に移る。

Step 7: フラッシュクロマトグラフィーによる精製

最終生成物を得るため、フラッシュクロマトグラフィーを用いて粗生成物を精製する。これにより、不純物が除去され、高純度のアルデヒドが得られる。精製後、無色液体のアルデヒドが得られ、収量は1.37 g(収率93%)となる。

反応機構とDIBAL-Hの役割

DIBAL-Hは、アルミニウム中心に2つのイソブチル基と1つの水素を持つ還元剤である。DIBAL-HがWeinrebアミドに作用すると、まずDIBAL-Hのアルミニウムがアミドのカルボニル酸素と配位結合を形成し、アミドが活性化される。

その後、DIBAL-Hから供給される水素がカルボニル炭素に転移し、アルデヒドが生成される。通常のアミドを還元するとアルコールまで進むが、Weinrebアミドはその構造によりアルデヒドで反応を停止させることができる。

注意事項

  1. DIBAL-Hの取扱い: DIBAL-Hは強力な還元剤であり、空気中の水分や酸素と激しく反応するため、厳密な無水環境と不活性ガス雰囲気(例えば窒素やアルゴン)下での取扱いが必要である。
  2. 低温保持: -78°Cの低温条件は過剰反応の抑制に不可欠であるため、温度管理を徹底する。冷却が不十分だとアルデヒドがさらなる還元を受け、アルコールや他の副生成物が生じる可能性がある。
  3. 水仕事の安全性: DIBAL-Hと水の反応は非常に発熱性であるため、飽和酒石酸ナトリウムカリウム水溶液の添加は少量ずつ行い、安全に注意することが重要である。

練習問題

以下に、Weinrebアミドの還元に関連する練習問題を挙げる。

  1. 問題 1: DIBAL-Hの代わりにLiAlH4を用いた場合、反応生成物はどのように変化するか説明せよ。
    • 解答: LiAlH4はより強力な還元剤であるため、Weinrebアミドからアルデヒドで反応が停止せず、最終生成物としてアルコールが得られる。
  2. 問題 2: -78°Cではなく室温で反応を行った場合、収率にどのような影響があるか考察せよ。
    • 解答: 反応温度が高いと、DIBAL-Hによるアルデヒドからアルコールへの過剰還元が進行しやすくなり、収率が低下する。
  3. 問題 3: 収量を高めるためのフラッシュクロマトグラフィーの条件について、考慮すべき点を述べよ。
    • 解答: カラムの充填剤、展開溶媒の選択、フロー速度などの最適化により、目的のアルデヒドのみを分離・精製する効率が向上する。
  4. 問題 4: DIBAL-Hの添加量を基質に対して2当量以上にするとどうなるか。
    • 解答: DIBAL-Hが過剰だと、Weinrebアミドから生成されたアルデヒドがさらに還元を受け、アルコールが生成される。