Stille-Kelly反応は、従来のStilleカップリングを改良した反応であり、特にヘキサメチルジスズ(Me3Sn)を用いた分子内カップリングを通して、アリールハロゲン化物の効率的な合成を可能にする手法である。
本稿では、Stille-Kelly反応を用いたフェナントロ[1,2]オキサゾールの合成法を紹介する。以下に、実験の手順、条件、注意点について詳細を解説する。
実験概要
使用試薬
- 基質: ジアリールオキサゾール(418 mg, 0.89 mmol)
- 触媒: Pd(PPh3)2Cl2(19.3 mg, 0.027 mmol)
- カップリング剤: ヘキサメチルジスズ(440 mg, 1.33 mmol)
- 溶媒: ジオキサン(脱気済み)
概要
本実験では、窒素雰囲気下で耐圧ガラス容器を使用し、115°Cで反応を進行させる。反応は高圧がかかるため、爆発を防ぐための注意が必要である。また、生成物の精製にはクロマトグラフィーと再結晶法を用いる。
実験手順
1. 反応系の準備
耐圧性のガラス容器を使用し、窒素雰囲気下で以下の操作を行う。
1.1. ジアリールオキサゾール(418 mg, 0.89 mmol)を窒素雰囲気下で脱気したジオキサン(19 mL)に溶解する。
1.2. 溶液にPd(PPh3)2Cl2(19.3 mg, 0.027 mmol)を加える。
2. ヘキサメチルジスズ溶液の滴下
ヘキサメチルジスズ(440 mg, 1.33 mmol)を脱気したジオキサン(7.4 mL)に溶かし、反応容器内に滴下する。滴下後、窒素置換を行い、容器を密閉する。
3. 反応条件
反応系を室温で15分間放置した後、115°Cに加熱し、50分間反応を進行させる。高温により圧力が上昇するため、耐圧ガラス容器を使用し、反応の安全性に留意することが重要である。
4. 反応終了後の処理
反応を終了させるため、容器を冷却し、内容物を遠心分離する。上澄みを分離し、残渣に含まれる黒色のパラジウム粉末をジクロロメタン(3 mL)で洗浄する。
生成物の精製
1. 有機相の回収と洗浄
有機層を集め、飽和フッ化カリウム水溶液(7 mL)で洗浄し、トリメチルスズ化合物を沈殿させる。その後、無水硫酸マグネシウムで乾燥する。
2. 溶媒の除去と粗生成物の精製
乾燥後、有機溶媒を減圧下で除去し、得られた黄色の粗生成物をフラッシュクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル = 3:7)により精製する。この操作により無色の生成物が得られる。
3. 再結晶による精製
精製された生成物をメタノール中で再結晶化し、フェナントロ[1,2]オキサゾールとして単離する。
4. 得られた生成物の収量
最終的に0.173 gの生成物を得、収率は89%である。
安全上の注意点
- 耐圧ガラス容器の使用: 高温加熱時に容器内の圧力が上昇するため、必ず耐圧性の容器を使用する。
- ドラフトチャンバーの使用: トリメチルスズ化合物は揮発性が高いため、ドラフトチャンバー内での操作が推奨される。
- 保護具の着用: 有害な化学物質の飛散や吸入を防ぐため、保護手袋と保護眼鏡を着用する。
反応機構
Stille-Kelly反応は、パラジウム触媒を介したクロスカップリング反応である。以下に簡単に反応機構を示す。
- 酸化的付加: パラジウム(0)種がアリールハロゲン化物に対して酸化的付加を行い、パラジウム(II)中間体を形成する。
- トランスメタル化: ヘキサメチルジスズがパラジウム中間体と反応し、メチル基が転位する。
- 還元的脱離: 生成物がパラジウム触媒から脱離し、目的のアリール化合物が生成する。