
アルキルエーテルの光吸収特性と光反応
アルキルエーテルは炭素–酸素結合のπ* 軌道遷移によって180 nm付近の光を吸収する。一方、アリルエーテルのような芳香環を持つエーテルでは、芳香環のπ→π* 遷移によって250 nm付近の光を吸収し、一重項状態を励起される。
この際、S₁状態での炭素–酸素結合のホモリシスにより、ラジカル種が生成するのが特徴である。
アルキルエーテルの光反応では、一般に生成したアルコキシラジカルがベータ開裂を起こし、アルデヒドやケトンを生成する。
また、一部のアルキルエーテルでは、アルコキシラジカルが水素原子を引き抜くことでアルコールが生成することもある。
ジエチルエーテルの光化学的挙動
液相中で185 nmの光を照射したジエチルエーテルでは、主に炭素–酸素結合のホモリシスによるラジカル対の生成が起こり、エタノールとアセトアルデヒドが得られる。
この際、量子収率は0.46と比較的高い値を示し、エチルラジカルの副生成も確認されている(図)。

気相中で147 nmの光を用いた場合は、さらに多様な分解生成物が得られる。この条件では、主にメタン、エチレン、ホルムアルデヒドが生成し、オゾン存在下では酸化生成物の種類が変化する。
また、254 nmの光を用いた銀光増感反応では、ジエチルエーテルがC–O結合のホモリシスを経て1,2-ジオキセタンと水素を生成することが確認されている。
アリルフェニルエーテルの光反応
アリルフェニルエーテルやベンジルフェニルエーテル、ジエニルエーテルなどのアリールエーテルは、254 nm付近の光を吸収し、炭素–酸素結合のホモリシスを経由して光ラジカル反応が進行する。
特に、アリルフェニルエーテルでは「光Claisen転位反応」が進行し、この反応は熱的Claisen転位とは異なるメカニズムであることが知られている(図)。
光Claisen転位反応では、まずS₁状態で炭素–酸素結合が開裂し、一重項ラジカル対が生成する。その後、ラジカル対の再結合によってオルト位およびパラ位への転位生成物が得られる。



特に、ヘキサン中で254 nmの光を照射した場合、フェノール誘導体の生成が確認され、その収率は約0.036〜0.038と低いが、特定の条件下では効率的な転位反応が進行することが報告されている。
また、ベンジルフェニルエーテルやジエニルエーテルの光反応でも、同様にラジカルを経由したフェノールやオルト、パラ位の転位生成物が得られることが確認されている。
まとめ
エーテルの光化学反応は、その構造によって異なるメカニズムで進行する。単純なアルキルエーテルではラジカル生成を伴う分解が優勢であり、ジエチルエーテルでは酸素添加による過酸化生成物の形成も確認されている。
一方、アリルフェニルエーテルなどの芳香族エーテルでは、光Claisen転位反応をはじめとする特異的な転位反応が観察される。

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