
塩水が純水よりも低温で凍る科学的な理由とは?
水に塩(塩化ナトリウム)を溶かすと、純水に比べて凍る温度が下がることは、理科の授業でもよく知られる。
たとえば、塩を5%溶解した水溶液は、−3℃で凍結する。しかし、このような現象がなぜ起こるのかを、分子レベルで説明できる人は多くない。
この記事では、図や具体例を交えながら、「塩水が純水よりも低温で凍る理由」を徹底的に解説する。
凝固点降下のメカニズムを分子レベルで理解する
水分子の動きと“出入りの平衡”とは?
0℃の水に氷を浮かべたとき、水分子は以下のような二方向の動きをする。
- 氷の表面から水へ分子が飛び出す
- 水から氷へ分子が取り込まれる

このとき、両者の動きが釣り合っていれば、氷と水の量は変わらない。この釣り合いの状態は「動的平衡」と呼ばれる。
豆知識: 実は、氷は絶えず“溶けて”おり、同時に“凍って”いる。凍結や融解は静止状態ではなく、分子レベルでは常に動きがあるのだ。
塩を加えると平衡が崩れる理由
塩が水に溶けると、Na⁺(ナトリウムイオン)とCl⁻(塩化物イオン)が水中に拡散し、自由に動き回るようになる。これらの粒子は、液体中の水分子の動きを物理的に邪魔する。
- 水分子が氷に取り込まれようとしても、イオンが壁のように邪魔する
- そのため、水分子が氷から逃げる速度の方が速くなり、氷が徐々に溶ける
この現象が起きている状態が、図である。

豆知識: 塩を加えると氷が溶けやすくなるのは、熱ではなく分子の“出入りのバランス”が崩れるからだった!
−3℃で平衡が戻る理由
温度と分子の動きの関係
温度が下がると、分子の運動エネルギーも小さくなる。つまり、分子が水中から逃げ出す速度も遅くなる。塩があることで一度崩れた分子のバランスは、さらに温度を下げてはじめて回復する。
−3℃という低温ではじめて、水と氷の間での分子の出入りのバランスが再び釣り合い、凍結が始まる。

豆知識: −3℃で凍るのは「5%の塩水」の場合であり、濃度が違えば凍る温度も変わる。塩が多ければ多いほど、凝固点はさらに下がる!
図で見る凝固点降下の具体的な様子

0℃において純水では、氷→水、水→氷の移動傾向が等しい。矢印の長さが同じなのはそのためである。

0℃において塩化ナトリウム5%溶液では、水分子の氷への移動がイオンの妨害で小さくなる。矢印の長さが異なる。

−3℃で再び釣り合いが取れる。氷と水の間で分子の出入りが等しくなり、凍結が始まる。
実生活に活かせる!凝固点降下の知識
- 道路の凍結防止剤として使われる塩
寒冷地で冬になると道路に塩がまかれるのは、凝固点を下げて凍りにくくするためである。これは科学的に非常に理にかなった方法である。 - アイスクリーム作りに使われる“氷と塩のミックス”
手作りアイスでよく用いられる“氷+塩”の容器。これも塩が氷の融点を下げ、より低温を実現するための工夫である。
結論:塩水が凍る温度が低いのは「分子のバランス」が崩れるから
塩水が−3℃で凍るのは、単に“塩が入っているから”というだけではなく、水分子の出入りのバランスが、塩によって崩されることが根本原因である。そのバランスを取り戻すには、温度をさらに下げる必要がある。
すなわち、凝固点降下とは、水分子の運動とイオンの干渉によって生じる、自然界の緻密なバランスの変化なのである。