
「脱離反応」とは?
化学の教科書に突然出てくる「脱離反応」。
名前だけ聞くとちょっとドキッとするかもしれないが、これは「分子の中から何か(基と呼ばれる部分)が離れていく」だけの話である。英語で言うと “Elimination Reaction(エリミネーション反応)”。
つまり、「いらないパーツがポロっと取れて、新しい形に変わる」そんな反応だ。
たとえば、XとYという2つのパーツ(基)が炭素にくっついているとしよう。
この2つのどちらか、もしくは両方が外れることで、新しく炭素同士の二重結合(=アルケン)が生まれる。これが脱離反応のゴールである。
脱離反応のポイントは「二重結合」と「巻矢印」
化学反応では、「電子がどう動いたか」がすべてのカギを握っている。
この電子の動きを描くのが「巻矢印(カーブアロー)」という記号だ。
まるで探偵のように、電子の足跡をたどっていくイメージである。
たとえばこんな感じ


この反応では、Yが電子を連れてポロリと外れ、H(プロトン)も塩基によって引き抜かれる。その結果、真ん中のC—Cの間に新しい二重結合ができる。ここが脱離反応のハイライトだ。
豆知識
二重結合が生まれると分子の形がガラッと変わり、化学的な性質も一変する。プラスチックの原料になるエチレンも、この反応で作れる!
3つの代表的な脱離反応をマスターしよう!
脱離反応には3つの「王道ルート」がある。
それぞれの名前には「E」がついていて、英語の "Elimination" を略したもの。
E1反応:のんびり型。まず離れて、あとで整える
E1反応(Elimination Unimolecular)は、2ステップで進行する。
- まずYがポロっと取れて、カルボカチオン(+の電荷を持つ炭素)ができる
- 次にHが塩基によって引き抜かれて、C=Cができる!

ポイント:
- 「カルボカチオン」が安定してないと反応しにくい
- 二級・三級アルキル基など、電子を分けてくれる仲間が周りにいると安定する
豆知識
カルボカチオンはちょっとしたセレブ状態。電子が足りなくて注目の的だから、求核剤(電子をくれる分子)にもすぐモテる!
E2反応:スピード勝負!一気に同時進行
E2反応(Elimination Bimolecular)は、1ステップで同時にすべてが起こる。
- 塩基がプロトン(H⁺)を引き抜く
- 同時にYがポロっと取れて
- すかさずC=Cができる!

ポイント
- 反応の速さは「基質」と「塩基」の両方に影響される
- 干渉の少ない立体配置(反対側にHとYがある)が必要
豆知識
この「一気に反応する」様子は、ダンスのペアが完璧なタイミングでステップを踏む感じに似ている。1人だけズレたらうまくいかない!
E1cB反応:レアキャラ登場!陰イオンルート
E1cB反応はちょっと特殊。まずプロトン(H⁺)を取って陰イオン(-)を作ってから、ゆっくりYが外れる。
- H⁺がまず塩基に奪われる(B:⁻が活躍)
- 陰イオン(アニオン)ができる
- 後からY⁻がポロっと外れる!

ポイント
- アニオンが安定なときに起きやすい
- 電子を引っ張る置換基があると◎
豆知識
このルートはレアなので、見かけたらラッキー!生化学反応や医薬品の合成でたまに登場する、通好みの反応だ。
置換反応とどう違うの?
実は、脱離反応と「置換反応(SN1やSN2)」は同じスタート地点から分岐することが多い。
たとえばE1とSN1はどちらもカルボカチオンを経由するし、E2とSN2は一段階で進行する点が似ている。
どっちが起きるか?のヒント:
- 強い塩基 → 脱離(E)
- 強い求核剤 → 置換(SN)
豆知識
E1とSN1、E2とSN2は「反応の双子」とも呼ばれる。条件次第でどっちに転ぶかが変わるので、まるで分かれ道のあるストーリーのよう!
まとめ:脱離反応はドラマチック!
どの脱離反応も、最終的にはC=Cの二重結合を作るのが目的。
だけど、そこに至る道は3つある:
- カルボカチオンを作って進む【E1】
- 一気に同時に進む【E2】
- 陰イオン中間体を経由する【E1cB】
そして、そのすべてにおいて「巻矢印」が重要。これはただの飾りではなく、電子の動きを記録する“科学の言葉”なのだ。
最後にワンポイントアドバイス
これから有機化学を学ぶなら、まずは手で何度も描いてみよう!
反応機構をノートに書きながら、矢印の意味を一つひとつ確認することが、理解の近道になる。
次に進む前に、「E1」「E2」「E1cB」の反応を何度も描いてマスターしておこう!