
概要
液体ヘリウムIIという特別な物質の中では、私たちが普段耳にする「音」とは違う、特別な種類の波が伝わっている。
それが「第2音波」である。本記事では、写真中の内容を完全に含めながら、液体ヘリウムIIの超流動現象、第1音波と第2音波の違い、そしてその仕組みを初歩から丁寧に解説する。
ヘリウムとは?液体ヘリウムの基礎知識
ヘリウムは非常に軽い気体で、風船に入れると浮かぶあの気体である。ヘリウムを極端に冷やしていくと、液体になる。
この液体には二つの種類の相(状態)が存在する。一つは液体ヘリウムI、もう一つが液体ヘリウムIIである。特に低温側、つまりより冷えた状態の液体ヘリウムIIでは「超流動」という不思議な現象が現れる。
超流動とは何か?
超流動は、液体がまるで摩擦ゼロで流れるかのような状態である。普通の液体(水や油など)は、流れるときに容器の壁に摩擦を受け、エネルギーを失う。
しかし超流動状態の液体は、細い管を通しても摩擦なしに流れ続け、容器の壁を登って外に溢れ出るという驚くべき性質を持つ。
液体ヘリウムIIでは、この超流動成分(粘性やエントロピーを持たない成分)と、通常の液体成分(粘性やエントロピーを持つ成分)が混ざって存在する。これを「二流体モデル」と呼ぶ。
普通の音(第1音波)の仕組み
空気中や水中で音が伝わる仕組みは、密度がギュッと詰まった部分(高密度)とスカスカの部分(低密度)が交互に伝わっていくことによる。この波を「音波」と呼び、液体ヘリウムIIでもこれと同じような波が伝わる。
この場合、正流動成分(普通の液体成分)と超流動成分は一緒に動き、密度の粗密波として伝わる。これが第1音波と呼ばれる。正流動体と超流動体が同じように波打つ様子が描かれている。
第2音波とは何か?
第1音波とは違い、第2音波は密度の波ではない。図(b)に示されるように、正流動成分と超流動成分が逆方向に動き、密度は変わらないが、温度(熱の量)が波として伝わっていく。
つまり、第2音波は「温度の波」「エントロピー(熱情報)の波」である。正流動成分はエントロピーを運ぶ役割を持っており、その部分の温度が高くなる。
一方、超流動成分の多い部分はエントロピーが少ないため温度が低くなる。高温部分と低温部分が交互に現れることで波ができる。これが第2音波である。
なぜ普通の音と違うのか?
普通の音(第1音波)は、密度変化によって圧力波として伝わる。例えば、話し声や音楽の音は空気の圧力の揺らぎである。
一方、第2音波は密度変化がなく、代わりに温度の揺らぎだけで伝わる。これは超流動体の存在によって初めて可能になる特別な波である。
第2音波の重要性と応用
第2音波は、液体ヘリウムIIの性質を研究するための重要な手段である。たとえば、温度波の伝わり方を詳しく調べることで、エントロピーの輸送特性や熱伝導率、超流動成分の割合などを知ることができる。
また、超流動ヘリウムは宇宙探査機の冷却材や超伝導実験の冷却材として応用されており、第2音波の理解は実用面でも役立つ。
図の詳しい説明
図(a)では、正流動成分(通常の液体)と超流動成分が一緒に密度の波として振動している。横軸は位置x、縦軸は密度を表している。正流動成分と超流動成分が逆方向に振動し、密度は一定だが、エントロピーと温度の波が形成されている。これが第2音波である。
まとめ
液体ヘリウムIIの中では、普通の音波(第1音波)と温度波(第2音波)の二種類の波が存在する。超流動体という特殊な状態が関与することで、第2音波という密度変化を伴わない波が伝わる。
この現象は、低温物理学の研究にとって不可欠であり、応用範囲も広い。
