
1. 光化学における光源の重要性
光化学においては、光を利用して物理化学反応を誘起したり、光学遷移を解析したりするために、適切な光源が不可欠である。最も身近な光源は太陽光であるが、光化学反応や測定を行う際には、特定の波長を持つ光を用いることが必要となる。実験室では、人工光源が用いられ、主なものとして光ダイオード、レーザー光源、定常光源、パルス光源などがある。
光源は、照射する光の性質に応じて大きく「定常光源」と「パルス光源」に分類される。定常光源は、一定の強度で持続的に光を照射し、連続スペクトル光源や線スペクトル光源が含まれる。一方、パルス光源は、短時間に強いエネルギーを持つ光を照射するものである。
以下では、光化学で使用される各種光源について詳しく解説する。
2. 定常光源の種類
定常光源は、光化学反応や分光測定において、広く使用される。以下のような種類が存在する。
(1) 連続スペクトル光源
連続スペクトルを発生させる光源であり、以下のようなものが含まれる。
- 直流放電ランプ
放電管に重水素ガスを封入し、170〜400 nmの紫外光を含む連続スペクトルを発生させる。主に吸収スペクトル測定や光化学実験の励起光源として使用される。 - キセノンランプ
放電管にキセノンガスを封入したランプで、紫外光から近赤外光までの高輝度な連続スペクトルを発生させる。特に吸収スペクトル測定や蛍光測定の励起光源として利用される。 - 熱電球(タングステンランプ)
物体を高温に加熱したときに発生する熱放射を利用した光源。タングステンフィラメントを用いるものが一般的であり、可視光から近赤外光までの連続スペクトルを提供する。主に可視領域の吸収測定や近赤外光を利用した測定に用いられる。
(2) 定常線スペクトル光源
特定の波長で発光する光源であり、以下のようなものがある。
- 水銀ランプ
水銀蒸気を封入した放電ランプであり、発光するスペクトルは水銀の気圧によって異なる。低圧水銀ランプ(波長253.7 nm)は殺菌灯や吸収測定用に使用され、高圧水銀ランプは可視領域の光を含み、照明や光化学反応の励起光源に使用される。 - 水銀キセノンランプ
水銀とキセノンを混合したランプで、紫外から近赤外まで広範囲の光を放射する。特に蛍光測定の励起光源として用いられる。 - 金属蒸気放電管
Na(ナトリウム)、K(カリウム)、Cs(セシウム)、Hg(水銀)、Zn(亜鉛)などの金属を放電管内に封入し、それぞれの元素特有の線スペクトルを発生させる。分光器を用いた分光測定において広く使用される。
3. パルス光源の種類
パルス光源は、短時間に強い光を照射するため、高速反応の追跡や光励起実験に使用される。
(1) フラッシュランプ
コンデンサに電気を蓄え、ガス放電によって短時間の高輝度光を発生させるランプ。特に以下の種類がある。
- キセノンフラッシュランプ
放電ガスとしてキセノンを封入し、紫外から近赤外までの広範囲なスペクトルを発生させる。過渡吸収測定や蛍光測定において励起光源として使用される。
(2) レーザー光源
レーザー光源は、特定の波長で高い指向性とコヒーレンスを持つ光を発生させる。主に以下のような用途に使用される。
- 励起光源として光化学反応を誘起する。
- 時間分解分光やレーザー分光測定に活用される。
4. その他の特殊光源
(1) シンクロトロン放射
シンクロトロン放射は、加速器を利用して高エネルギーの電子を磁場中で加速することにより発生する光源である。紫外線からX線領域までの広範な連続スペクトルを持ち、非常に高い輝度を誇る。特に以下のような研究用途で使用される。
- EXAFS(Extended X-ray Absorption Fine Structure)による局所構造解析
- 光電子分光による表面特性の解析
- 蛍光X線分析を用いた元素分析
シンクロトロン放射光は、従来の光源と比較して極めて高い輝度と広範な波長範囲を持つため、精密な光化学実験に活用されている。
5. まとめ
光化学で使用される光源には、定常光源とパルス光源があり、それぞれが特定の用途に応じて選択される。定常光源は、連続スペクトル光源(直流放電ランプ、キセノンランプ、タングステンランプ)や定常線スペクトル光源(水銀ランプ、金属蒸気放電管)などがあり、主に吸収測定や光励起に使用される。
一方、パルス光源には、フラッシュランプやレーザー光源があり、高速反応の追跡や時間分解分光に適用される。さらに、シンクロトロン放射光は、極めて高い輝度を持ち、分光分析や表面解析などに活用されている。

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