
Jones酸化反応の概要
Jones酸化反応とは、三酸化クロム(CrO₃)を希硫酸(H₂SO₄)に溶解させた酸化剤を用い、アルコールを酸化してカルボニル化合物を得る反応である。
この反応は有機合成化学において古典的かつ頻用される手法であり、特に第一級アルコールからカルボン酸、第二級アルコールからケトンを高収率で得ることができる点に特徴がある。
一般式として以下のようにまとめられる:
- ・第一級アルコール(RCH₂OH) → アルデヒド(RCHO) → カルボン酸(RCOOH)
- ・第二級アルコール(R₁R₂CHOH) → ケトン(R₁COR₂)
本反応はCr(VI)種を用いる酸化反応であり、反応条件下でアルコールがクロム酸エステル中間体を経由して酸化される。
第二級アルコールの酸化機構


第二級アルコール(A)は、CrO₃/H₂SO₄と反応してクロム酸エステル中間体(a)を形成する。この中間体は不安定であり、速やかに脱離反応を経てケトン(B)を生成する。
反応機構の要点は以下の通りである↓↓↓
- アルコールの酸素原子がCr(VI)に配位し、クロム酸エステルを形成する。
- β-水素の脱離に伴いH₂CrO₃が生成し、同時にカルボニル基をもつケトンが生成する。
これにより、第二級アルコールはほぼ定量的に対応するケトンへ変換される。
第一級アルコールの酸化機構


第一級アルコール(A’)は同様にクロム酸エステル(a’)を経由し、まずアルデヒド(RCHO)を生成する。
しかし、反応条件が酸化的であるため、アルデヒドはさらに酸化され、カルボン酸(B’)へと変換される。
反応の流れは以下の通りである↓↓↓
- 第一級アルコールがCrO₃/H₂SO₄と反応し、クロム酸エステル(a’)を形成。
- 脱離反応によりアルデヒド(RCHO)が生成。
- 水と平衡しつつ水和物(b’)を形成。
- 水和物が再びクロム酸と反応し、クロム酸エステル(c’)を経て最終的にカルボン酸(RCOOH)を与える。
このように、Jones酸化では第一級アルコールはほとんどの場合アルデヒドに留まらず、カルボン酸へと完全酸化される。
酸に敏感な基質への適用とPCC・PDCの利用
Jones酸化は強酸性条件下で行われるため、酸に不安定な官能基を有する基質には不向きである。
この場合、より温和な酸化剤であるPCC(ピリジニウムクロロクロマート, PyH⁺CrO₃Cl⁻)やPDC(ピリジニウムジクロマート, (PyH⁺)₂Cr₂O₇²⁻)が用いられる。
これらの酸化剤は以下の特徴を有する↓↓↓
- PCCは第一級アルコールをアルデヒドに酸化するが、カルボン酸までは進行しにくい。
- PDCも同様に、第一級アルコールや第二級アルコールをそれぞれアルデヒド・ケトンへと酸化する。
- 強酸を必要としないため、酸に敏感な基質にも適用できる。
このため、合成計画においては「アルデヒド止まりで酸化を停止させたい場合」や「酸性条件が不適な場合」にPCCやPDCが選択される。
具体例


まとめ
Jones酸化反応は、有機合成化学においてアルコールを酸化してカルボン酸やケトンを得るための基本的手法である。第二級アルコールはケトンへ、第一級アルコールは原則としてカルボン酸へと変換される。
反応はクロム酸エステルを経由して進行し、強酸性条件下で効率的に進む。
一方で酸に敏感な基質やアルデヒド段階で酸化を止めたい場合には、PCCやPDCといったより温和なクロム酸化剤が有効である。これらの知識を組み合わせることで、目的化合物に応じた最適な酸化条件を選択できる。