
本記事では、実験化学において必須の操作である気体の乾燥について、添付資料の内容をもとに、より詳細で包括的に解説する。
乾燥法の種類、使用される乾燥剤の特性、さらにそれぞれの方法の適用範囲について、学術的な視点から整理する。
気体乾燥の基本原理
気体を乾燥させる目的は、化学実験において不要な水分を除去することにある。水分が残存すると、反応の進行が阻害される場合や副反応を誘発する場合があるため、精密な実験操作では不可欠の処理である。
乾燥の手法は大きく分けて以下の通りである。
- 固体乾燥剤を詰めたカラム管を通す方法(図1)。

- 濃硫酸を入れた洗気瓶を用いる方法(図2)。

- 大量の気体を乾燥させる場合は乾燥塔を使用。
- 沸点の極めて低い気体には、ドライアイスや液体窒素で冷却したトラップを用いる方法。
固体乾燥剤による乾燥
固体乾燥剤は、気体中の水分を吸着または化学反応により除去するものであり、代表的なものは以下である。
- 塩化カルシウム(CaCl₂)
- シリカゲル(SiO₂・nH₂O)
- 粒状水酸化カリウム(KOH, 塩基性気体の場合に使用)
- 五酸化リン(P₂O₅, 非常に強力な乾燥剤)
- 活性アルミナ、モレキュラーシーブなど
図1に示すように、カラム管に乾燥剤を充填し、その間を気体を通過させることで乾燥が行われる。内部にはグラスウールを詰め、乾燥剤が飛散しないように保持する。
濃硫酸を用いた乾燥
濃硫酸は強力な脱水作用を示すため、古典的な気体乾燥法として頻繁に利用される。図2に示されるように、洗気瓶の底に濃硫酸を入れ、気体を通すことで水分が除去される。
ただし、濃硫酸は一部の気体(アンモニアなど)と反応するため、適用範囲には制限がある。
この方法を用いる際には、液体の飛散を防ぐためにしぶき止め(空瓶)を入れる必要がある。場合によってはガラスフィルターを併用することも有効である。
大量の気体を乾燥する場合
少量の実験ではカラム管や洗気瓶で十分であるが、大量の気体を処理する場合は乾燥塔を用いるのが一般的である。
充填された乾燥剤の中を気体が通過する構造となっており、効率的に水分を除去できる。
乾燥剤が潮解すると、塔の底部に液体が溜まる。このため、実験中は定期的に観察し、乾燥剤の交換や更新を行う必要がある。
低沸点気体の乾燥
沸点の極めて低い気体(例:メタン、酸素、窒素など)を乾燥させる場合、通常の乾燥剤では十分な効果が得られない。
この場合には、ドライアイス(-78 ℃)や液体窒素(-196 ℃)を用いてトラップを冷却し、気体中の水分を凝縮除去する方法が用いられる。この方法は最も強力な乾燥手段のひとつである。
乾燥剤の性能比較
主な気体用乾燥剤によれば、乾燥効果は大きく異なる。室温の空気1 L中に残る水の量を基準に比較すると以下のようになる。
- 最も強力: 五酸化リン(P₂O₅) < 2 × 10⁻⁵ mg
- 高性能: モレキュラーシーブ(1 × 10⁻⁴ mg)、活性アルミナ(1.8 × 10⁻⁸ mg)、シリカゲル(0.5〜0.003 mg)
- 中程度: 濃硫酸(95%)で0.3 mg、CaCl₂で1.5 mg
- 低性能: 0 ℃冷却に4.7 mg
さらに、液体窒素冷却(-196 ℃)では 1.6 × 10⁻²³ mg という理論的にほぼ完全な乾燥が可能である。
まとめ
気体乾燥の方法は、目的とする気体の性質、必要な乾燥度、処理量によって選択される。
- 少量の気体 → 固体乾燥剤入りカラム管や濃硫酸洗気瓶
- 大量の気体 → 乾燥塔
- 低沸点気体 → ドライアイスや液体窒素冷却トラップ
乾燥剤の選択は、気体と反応しないことおよび十分な乾燥性能を有することが必須条件である。したがって、実験計画に応じた適切な乾燥法を選択することが重要である。