【実験レシピ】Grignard試薬の調製法「金属マグネシウムからの発生法」

Grignard試薬の調製法・豆知識

ジブロモエタンやジヨードエタンは、適切な溶媒中でマグネシウムと反応することがよく知られている。

この反応では、ジブロモエタンがマグネシウムの表面と作用し、マグネシウムを酸化させて臭化マグネシウム (MgBr2) を生成し、その結果、エチレンガスが発生する。

このような反応は、他のハロゲン化アルキルも同様にマグネシウムと反応し、Grignard 試薬を生成することが知られている。Grignard 試薬の発生には、ヨウ素を少量添加すると反応が促進されることがよく報告されている。

これは、ヨウ素がマグネシウム表面を部分的に酸化し、ヨウ化マグネシウム (MgI2) を生成するだけでなく、新しいフレッシュなマグネシウムの金属表面を露出させ、その新しい表面がハロゲン化アルキルと効率的に反応できるようになるためである。

この一連の反応は、Grignard 試薬がマグネシウムイオンに配位できる溶媒、例えばエーテルやTHF (テトラヒドロフラン) など、マグネシウムを安定化させる溶媒中で行うのが一般的である。

Grignard 反応は、有機化学において強力な合成手法の一つであり、アルケン、アルコール、カルボン酸などの幅広い有機化合物の合成に応用される。

Grignard試薬の発生法:金属マグネシウムを用いた合成手順

実験手順の詳細

以下では、具体的な実験手順を説明する。金属マグネシウムを用いたGrignard試薬の合成における重要なポイントを理解するためのものである。

1. 使用機器および試薬の準備

Grignard試薬の生成には、乾燥環境が必須である。使用するフラスコやその他のガラス器具はすべて十分に乾燥させる必要がある。特に、酸素や水分の存在を排除するため、アルゴン雰囲気下で作業を行う。また、THF(テトラヒドロフラン)などの乾燥溶媒を用いる。

ガラス器具の乾燥

  • フラスコや反応管はまずアルゴン置換した後、炎であぶってガラス表面の水分を飛ばし、乾燥させる。
  • 十分に乾燥したことを確認した後、アルゴン雰囲気下で室温まで冷却する。

2. 金属マグネシウムの準備

金属マグネシウムは削り節状のものを使用することが多い。マグネシウムは酸化されやすく、表面に酸化膜ができやすいため、反応を開始する前にその表面を処理する必要がある。今回の例では、ジブロモエタンを2滴加えてマグネシウム表面を活性化している。これにより、酸化膜が取り除かれ、金属マグネシウムの新鮮な表面が露出する。

  • マグネシウム削り節(3.5g, 146mmol)を反応フラスコに入れる。
  • 乾燥THF(10mL)を加えて浸す。
  • ジブロモエタンを2滴添加して、マグネシウム表面を活性化。

3. ハロゲン化物の添加

今回使用する有機ハロゲン化物は、臭化(2)-(-)-ベンジルオキシー2ーメチルプロピル(10.43g, 43mmol)である。この化合物はGrignard反応により有機マグネシウム化合物となる。

  • 臭化(2)-(-)-ベンジルオキシー2ーメチルプロピルのTHF溶液(70mL)を準備する。
  • これを、THFが穏やかに還流する速度で反応フラスコに滴下する。
  • 反応が始まる前に、全体の25%以上の臭化物を加えないように注意する。急激な反応を防ぐためである。

4. 反応の進行

滴下後、反応が開始されるまでに少し時間がかかることがある。反応が開始したら、以下の手順を踏んで進める:

  • 全ての臭化物の添加が完了するまで反応を続ける。
  • 反応混合物を30分間加熱還流させ、十分に反応させる。
  • その後、反応を室温まで冷却する。

5. Grignard試薬の調製

反応が終了したら、さらに40mLの乾燥THFを加えて希釈する。最終的には、約0.5MのGrignard試薬溶液が得られる。

  • 反応後の混合物に乾燥THFを40mL加える。
  • 得られたGrignard試薬溶液は、他の有機合成反応にそのまま利用できる。

注意点とコツ

Grignard試薬の調製は、乾燥環境を確保することが最も重要である。以下の点に留意する必要がある。

1. 酸素・水分の除去

Grignard試薬は極めて反応性が高く、水分や酸素の存在下ではすぐに分解する。そのため、反応系はすべてアルゴン雰囲気下で行い、器具や溶媒は完全に乾燥させる必要がある。

2. マグネシウムの表面活性化

マグネシウムの表面が酸化されていると、反応が進行しない。したがって、ジブロモエタンなどの添加剤を使用して表面を処理し、金属マグネシウムの新鮮な表面を露出させることが重要である。

3. 反応開始前の滴下量

ハロゲン化物の添加は慎重に行う必要がある。特に反応が開始する前に大量の臭化物を加えると、急激な反応が起こり危険である。そのため、全体の25%以上の臭化物を反応が始まる前に添加しないようにする。

練習問題

以下に、Grignard試薬の生成に関する練習問題を提示する。

問題1

Grignard試薬を生成する際に、乾燥環境が必要な理由を説明せよ。

問題2

金属マグネシウムの酸化膜を除去するために使用する化合物の役割を説明せよ。

問題3

Grignard試薬を生成する際に使用される溶媒の例を挙げ、それが選ばれる理由を述べよ。

問題4

Grignard試薬を用いた代表的な反応の一例を挙げ、その反応機構を示せ。

問題5

なぜ臭化物の添加は慎重に行う必要があるのか、理由を説明せよ。

解答と解説

解答1

Grignard試薬は非常に反応性が高く、水分や酸素と反応して失活してしまうため、乾燥環境が必要である。

解答2

酸化膜を除去するためには、ジブロモエタンなどが用いられる。これにより酸化膜が分解され、マグネシウムの新しい表面が露出する。

解答3

一般的にはエーテル系溶媒(THFやジエチルエーテル)が使用される。これらの溶媒は、Grignard試薬が安定に存在するためである。

解答4

カルボニル化合物との反応が代表例である。カルボニル基がGrignard試薬と反応し、新たにC-C結合を形成してアルコールを生成する。

解答5

臭化物の添加が急速に行われると、反応が急激に進行し危険であるため、徐々に添加することが求められる。