1. 過酸化ベンゾイル(BPO)によるラジカル重合の概要
過酸化ベンゾイル(BPO)はラジカル重合の開始剤として広く使用される。BPOは分解してラジカルを生成し、そのラジカルがモノマーに付加することで重合が開始される。ここではスチレン(St)とメタクリル酸メチル(MMA)のバルク重合における、BPOを用いた反応の開始反応と停止反応について比較する。
ラジカル重合における基本的なメカニズム
ラジカル重合は次のステップからなる:
- 開始反応 - 開始剤の分解によるラジカル生成とモノマーへの付加
- 成長反応 - モノマーが次々と付加して高分子が成長
- 停止反応 - ラジカル同士の再結合や不均化により重合反応が終了する
このうち、開始反応と停止反応はモノマーの性質によって異なるメカニズムを示す場合がある。
2. スチレン(St)の重合における開始反応と停止反応
スチレンの開始反応
スチレン(C8H8)は電子供与性のモノマーであるため、生成したラジカルを安定化する性質が強い。BPOの分解で生成されるベンゾイルオキシラジカル(PhCOO・)がスチレンの二重結合に速やかに付加し、スチレンラジカルを生成する。この付加反応が迅速に進行するため、スチレンの重合は効率よく開始される。
- 化学反応式(開始反応)
- BPO → 2PhCOO・(ベンゾイルオキシラジカルの生成)
- PhCOO・ + CH2=CHPh → PhCOOCH2CHPh・
このように、スチレンの重合はベンゾイルオキシラジカルの直接付加によって始まり、成長ラジカルが生成される。
スチレンの停止反応
スチレンの重合では、停止反応として再結合停止が主に進行する。再結合停止は二つの成長ラジカルが結合し、高分子が生成される反応である。スチレンでは、この再結合がほぼ唯一の停止メカニズムとして働くため、得られるポリマーの分子量が比較的高くなる傾向がある。
- 化学反応式(再結合停止)
- R・ + R'・ → R-R'
3. メタクリル酸メチル(MMA)の重合における開始反応と停止反応
MMAの開始反応
MMA(C5H8O2)は電子求引性のモノマーであるため、ベンゾイルオキシラジカルの直接的な付加はスチレンに比べて遅い。その代わりに、ベンゾイルオキシラジカルはβ開裂によってフェニルラジカル(Ph・)を生成し、このフェニルラジカルがMMAの二重結合に付加することで重合が開始される。
- 化学反応式(開始反応)
- PhCOO・ → Ph・ + CO2(β開裂によるフェニルラジカルの生成)
- Ph・ + CH2=C(CH3)COOCH3 → PhCH2C(CH3)COOCH3・
MMAでは、分解生成物のフェニルラジカルが活性種となるため、開始過程がやや異なる。
MMAの停止反応
MMAの重合においては、再結合停止と不均化停止の両方が進行する。不均化停止では、二つのラジカルが電子を移動させ合うことで一方が飽和化し、もう一方が不飽和化する。このため、不均化停止が進行することで得られるポリマー分子内に不飽和結合が残る場合がある。
- 化学反応式(不均化停止)
- RCH2CH2・ + R'CH2CH=CH・ → RCH2CH2CH3 + R'CH=CHCH2
不均化停止の存在によってMMA重合では多様な停止反応が起こりうるため、分子量分布やポリマーの構造にも影響を与える。
4. スチレンとMMAの重合における開始反応・停止反応の相違点
スチレンとMMAの重合では、以下のような違いがある。
開始反応の違い
- スチレン:ベンゾイルオキシラジカルが直接付加して開始。
- MMA:ベンゾイルオキシラジカルは付加せず、β開裂により生成したフェニルラジカルが付加。
停止反応の違い
- スチレン:再結合停止のみが主に進行する。
- MMA:再結合停止と不均化停止の両方が競争的に進行し、不均化停止による分子内に不飽和結合が生じる可能性がある。
5. 練習問題
問題1
スチレンのラジカル重合における開始反応で生成されるラジカル種は何か。
- 解答:ベンゾイルオキシラジカル(PhCOO・)が生成され、スチレンに付加して成長ラジカルが形成される。
問題2
MMAの重合において開始反応が遅くなる理由は何か。
- 解答:MMAは電子求引性であり、ベンゾイルオキシラジカルの直接的な付加が起こりにくいため。代わりに、ベンゾイルオキシラジカルのβ開裂で生成したフェニルラジカルが付加する。
問題3
スチレンとMMAの停止反応における主な違いは何か。
- 解答:スチレンでは再結合停止のみが進行し、MMAでは再結合停止と不均化停止の両方が進行する。