
〜アルケンからシクロプロパン誘導体を効率的に合成する方法〜
Simmons–Smith反応は、有機合成化学において極めて重要なアルケン付加反応の一つであり、アルケンを高収率でシクロプロパン誘導体へと変換する手法として広く利用されている。
本記事では、反応機構、反応の特徴、応用例、ならびに実際の合成事例を詳説する。
Simmons–Smith反応の概要
Simmons–Smith反応は、アルケンに対してジクロロメタン(CH₂I₂などのハロメタン誘導体)と亜鉛–銅(Zn–Cu)カップリング試薬を作用させることで進行する。
反応により生成する中間体カルベノイド種(Zn–CH₂–I など)がアルケンに付加し、シクロプロパン環を形成する。
この際、立体化学は保持され、カルボカチオンの遊離は発生しない点が特徴的である。


反応機構の詳細
- カルベノイド種の生成
ジクロロメタンとZn–Cuカップリングにより、活性種(a)が生成される。これは金属挿入反応により生じるカルベノイド種であり、アルケンとの反応性が高い。 - アルケンへの付加
アルケン(A)に対してカルベノイド種(a)が協奏的に作用し、遷移状態(b)を経由する。 - シクロプロパン環の形成
遷移状態からZnI₂が脱離し、シクロプロパン誘導体(B)が得られる。
この反応は協奏的に進行するため、アルケンの立体化学が保持される点が大きな利点である。
Simmons–Smith反応の特徴と利点
- 立体保持的反応:アルケンのcis/trans立体化学がそのままシクロプロパン環に反映される。
- 官能基許容性の高さ:エーテル、アミド、エステル、ヒドロキシ基など、多くの官能基が存在しても反応が進行する。
- 高純度生成物:光学活性化合物を利用すれば、不斉シクロプロパン化を高い化学純度で実現可能。
応用と変法
- Zn–Cu合金の代替として Et₂Zn を用いることも可能である(図2,3)。
- Et₂ZnとCH₂I₂を用いた光学活性化条件下では、不斉シクロプロパン化を効率的に実現できる(図4)。
- これにより、天然物合成や医薬品開発においてシクロプロパン骨格の構築に広く応用されている。
↓図1

↓図2、3


↓4

実際の反応例
- メトキシ置換シクロヘキセンの反応
基質としてOCH₃基を持つアルケンをCH₂I₂・Zn–Cu条件下で処理すると、91%の高収率でシクロプロパン環を形成する。 - 複雑骨格化合物に対する応用
Et₂ZnとCH₂I₂を用いた反応では、テトラヒドロフラン環を含む複雑な化合物に対しても100%の収率で選択的なシクロプロパン化が進行する。
まとめ
Simmons–Smith反応は、アルケンからシクロプロパン誘導体を高効率かつ立体保持的に合成できる有力な手法である。
Zn–Cu合金やEt₂Znを利用したカルベノイド種の生成を鍵とし、幅広い官能基を許容することから、天然物合成や医薬品化学における応用範囲は極めて広い。
本反応は有機合成化学者にとって必須の知識であり、今後も新しい展開が期待される。
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